6月から9月にかけて発症
「夏季うつ(夏型うつ病)」とは、夏の暑い時期に気分の落ち込みや意欲の低下、不眠などのうつ症状が現れる季節性のうつ病の一種です。英語では「Summer SAD(Seasonal Affective Disorder)」と呼ばれ、主に6月から9月にかけて発症し、秋になると症状が軽快または消失するという特徴があります。冬季うつ病が「日照不足」によるものとされるのに対し、夏季うつは「暑さ」「湿度」「生活リズムの乱れ」などが引き金になると考えられています。
症状の特徴
一般的なうつ病や冬季うつと異なり、夏季うつには以下のような特徴があります。
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不眠:暑さや自律神経の乱れにより寝つきが悪く、夜中に目が覚めることが多くなります。
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食欲不振・体重減少:冷たい飲食物に偏ることで消化機能が低下し、栄養バランスが崩れます。
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疲労感・無気力:日中の強い日差しや高温多湿により、体力が消耗しやすく、やる気が出なくなります。
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不安・イライラ:交感神経が過剰に刺激され、不安感や焦燥感が高まることがあります。
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対人関係の回避:暑さや気力の低下により、人と会うのがおっくうになり、孤立感を深めることがあります。
これらの症状は「夏バテ」と混同されることもありますが、2週間以上続いたり、日常生活に支障をきたすようであれば、夏季うつの可能性が高いといえます。
発症の背景と原因
1. 自律神経の乱れ
高温多湿な夏の環境は、体温調節に関わる自律神経に大きな負担をかけます。エアコンの効いた室内と猛暑の屋外との温度差に頻繁にさらされることで、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなり、心身のバランスが崩れます。
2. 睡眠不足とホルモンの変化
睡眠は、感情や記憶を整理するために不可欠ですが、夏は寝苦しさや夜更かしにより、睡眠の質が低下しやすい季節です。また、日照時間が長くなることで「メラトニン(睡眠ホルモン)」の分泌が減少し、眠りにくくなります。
3. 生活リズムの崩れ
長期休暇やイベントなどで生活リズムが不規則になりがちな夏は、体内時計(概日リズム)が乱れやすく、それが気分の不安定さや無気力感を引き起こします。
4. 孤独感や比較ストレス
SNSなどで「夏を楽しんでいる人々」を見て、自分の現状と比較してしまうことで、孤独感や自己否定感が強まる傾向もあります。これは特に若年層や一人暮らしの人に多く見られます。
対処法・予防策
1. 生活リズムを整える
毎日同じ時間に起きて、朝日を浴びることで体内時計をリセットし、メンタルの安定につながります。日中の軽い運動も効果的です。
2. 冷房の使い方に注意
エアコンは適切に使用し、体が冷えすぎないよう工夫します。外出時との気温差はできるだけ小さく保ちましょう。
3. 栄養バランスの良い食事
冷たいものや糖質ばかりに偏らず、タンパク質やビタミン・ミネラルを意識して摂取することで、体と心の調子を整えることができます。
4. 無理をしない
夏はイベントが多く、予定を詰めすぎることで疲労がたまりやすくなります。自分の体調や気分を最優先にし、「何もしない日」も積極的に作ることが大切です。
5. 必要であれば医療機関へ相談を
症状が続く場合は、精神科や心療内科を受診し、必要な治療やカウンセリングを受けることも検討しましょう。
原因を正しく理解することが大切
夏季うつは、明るく活動的なイメージとは裏腹に、多くの人が心身のバランスを崩しやすい季節に起こるメンタル不調です。暑さや日照、生活リズムの乱れといった外的要因が複雑に関与するため、「だらしない」「甘えている」などと自己否定せず、まずは原因を正しく理解することが大切です。休息とセルフケア、必要に応じた専門的支援を通じて、心の健康を守ることが、暑い夏を乗り越えるカギとなります。