繰り返される宗教問題と元ジャーナリストとしての私の思い
最近、世間を騒がせている旧統一教会(世界平和統一家庭連合)。
政治との関わりのほか、多額の献金、2世信者、霊感商法、洗脳・マインドコントロールなど、さまざまな問題が取り沙汰され、連日、報道が絶えません。
こうした、宗教に関連する問題や事件は今に始まったことではなく、かつては旧統一教会だけではなく、世間を震撼させたオウム真理教事件を筆頭に、さまざまな宗教団体による各種の活動が問題とされてきました。
現在は心理カウンセラーとして活動している私は、かつては週刊誌の記者として数々の事件や社会問題を取材してきました。
そうしたなかで、「地下鉄サリン事件」や「坂本弁護士一家殺害事件」といった数々の凶悪事件を引き起こしたオウム真理教はもちろん、当時、霊感商法や合同結婚式などで社会問題となった旧統一教会による一連の事件を取材した経験を持ちます。
両教団の問題を長年にわたって取材・告発を行ない、現在もその活動を精力的に続けているジャーナリストの有田芳生氏にもたびたび取材してお話しを伺ったり、情報提供をお願いしました。
このほかにも、さまざまな宗教団体による問題に取り組んでいる著名な弁護士の方々にも取材をさせていただくなどして記事を執筆し、週刊誌上で情報発信・問題提起を行ないました。
こうした経験を通じて私が痛感したことは、本来、人を幸せにしたり、安らぎをもたらすはずの宗教が、逆に人を不幸にしたり、不安に陥れるようなことは断じてあってはならないということでした。
しかし、残念なことに宗教問題は繰り返され、それも同じ団体によって引き起こされました。正確に述べるなら、かつて問題とされた団体の実態が改善されることなく放置され、「安倍元総理銃撃事件」という衝撃的な形によって再び露呈したというわけです。
現在はマスコミの世界から離れているとはいえ、曲がりなりにも元ジャーナリストである私としては、慙愧(ざんき)の念に堪えないと言うほかありません。
カウンセリングに寄せられる宗教関連の相談の数々
週刊誌の記者から紆余曲折を経て、現在では心理カウンセラーとして活動し、多くの方々のさまざまなご相談に対応していると、ここでも宗教関連の相談が寄せられることがあります。
あえて旧統一教会以外の団体名は伏せますが、いずれもみなさんが一度は耳にしたことがあると思われる団体、あるいは誰もがよく知る団体も含まれます。
今回は、いくつかの実例をご紹介し、みなさんにも実態を知っていただき、そして、自分のこととして考えていただきたいと思います(プライバシー保護と、団体の特定、訴訟問題に発展することを避けるため、一部、修正を加えてあります)。
【 宗教関連の相談 実例① 】
相談者:20代前半/女性Aさん
Aさんは、両親が旧統一教会の信者で、いわゆる「祝福2世」に当たる。同教団はキリスト教系ということもあり、Aさんは聖書の中に出てくる預言者の名前を漢字表記に置き換えて名付けられた。
幼い頃は何の疑いもなく、両親とともに教会に通っていたが、ある時期から、「うちは普通じゃない」と気づき、アイデンティティの崩壊、親への反抗心・憎しみなどから、性格が歪み(本人談)、自身を否定する思いが強く、一般的な職業に馴染めず、いつしか自暴自棄になり、現在は風俗で働いている。
現在は教団を脱会し、両親とは絶縁状態だが、自身の名前の由来もあって、精神的に逃れられないため、常に教団と両親に付きまとわれているように感じている。
そのため、心底、自由になれず、解放されたいと願いながらも、縛られた心地で生きているのがつらい。
【 宗教関連の相談 実例② 】
相談者:20代後半/女性Bさん
両親が新興宗教の長年の信者。いわゆる宗教2世。子供の頃から頻繁に教団施設に連れて行かれ、教えを叩き込まれた。毎日、お題目(南妙法蓮華経)を何時間も唱えさせられた。
こうしたことは、Bさんが物心がついたころから行なっていたので、それが「普通のこと」であり、「当たり前のこと」だと信じて疑わなかった。「どこの家庭でもやっていることだと思っていました」(Bさん)
しかし、Bさんはこう言う。「私が鈍感すぎたのか、小中高とそんな状態で過ごしましたが、大学に進学後、さまざまな学生たちと接するうちに、今までの自分の人生に疑問を抱くようになりました。その結果、それまで普通だと思っていたことの多くが、普通どころかむしろ異常だと気づいたんです」
それまで信じてきたものが崩れ去り、今までの自分の人生はいったいなんだったのか? 自分とはなんなのか? この先、何を信じ、どうやって生きていけばいいのかわからなくなった。このような状態で生きていることが苦しい。助けてほしい。
【 宗教関連の相談 実例③ 】
相談者:20代後半/女性Cさん
交際中の彼氏が突然、ある宗教団体に入信し、教団の活動にのめり込むようになる。
「私は宗教にまったく興味がないし、神も仏も信じていないので、彼が急に入信したことを知ったときは驚きましたし、戸惑いもしました。でも、彼は仕事のストレスが大きくて、精神的に参っていることが多かったので、宗教が彼の心を救ってくれるのなら、それはそれでいいかなと思いました」(Cさん)
しかし、毎週末のデート先は都心から離れた教団本部や関連施設に限られるようになり、映画を見に行ったり、遊園地に行くといったことはなくなった。
さらに、彼はCさんにも入信を強く勧めてくるようになった。「なかば強制的でしたね。“俺が信者なんだから、お前も入信するのは当然。それができないなら、別れたっていいんだからな”って。同じ価値観を持てないなら、一緒にはいられないということでした」(Cさん)
彼と別れたくないCさんは、やむなく入信手続きを済ませた。そして、教団施設に行けば、教団の教えを学ぶ勉強会や地区の青年会などへの参加費が毎回数千円必要となり、さらに教本や教団グッズなどの物品の購入を強く勧められ、彼の手前、断わることもできず購入している。
小さな会社の事務職をしているCさんは収入が多いわけではないのに、こうした出費が負担になってきている。これは彼も同様で、カードローンで借金をしながら教団活動にかかる費用を賄っている。
これでは2人の将来が見えず不安で仕方がないが、どうすればいいかわからない。
【 宗教関連の相談 実例④ 】
相談者:30代前半/女性Dさん
結婚を前提に交際している彼氏。結婚話が現実的になってきてから、彼の両親や親族がある仏教系宗教の熱心な信者であることを明かされる。結婚するにあたって、両親・親族とうまくやっていくためにも必要だからと、Dさんに入信を迫ってきた。「もし、それができないなら、結婚は難しいと言われました。そこまで言うなら、とりあえず形だけ入信しておこうと思ったのですが、彼の両親は教団支部で責任ある立場らしく、私が入信すれば、形だけでは済まされず、他の信者さんたちをまとめたり、かなり精力的に活動を行なわなければならなくなりそうなんです」(Dさん)
今まで宗教の話を一切してこなかった彼に対する不信感があるものの、長く付き合ってきたことから未練もあり、関係を続けて結婚するか、それともやはり別れたほうがいいのか? 気持ちの整理がつかなくなり、眠れない日が増え、朝、起きるのがつらくなり、仕事にも支障が出てきてしまった。一人ではどうにもならず、苦しくて仕方がなくて相談に来た。
カウンセリングにおける宗教問題の取り扱い
私は前述の通り、週刊誌の記者として宗教問題に携わってきた経験があるため、何らかの問題が指摘される複数の団体について、ある程度の知識があります。
そのため、カウンセラーとして相談者の心理面のサポートだけではなく、当該団体による問題についての具体的な対処法を提示することが可能な場合があり、そのようなケースについては、元ジャーナリストとしての視点からの助言を行なうこともあります。
とはいえ、宗教問題の専門家というわけではないので、法的な問題が絡むことまでは対応できませんので、こうした問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめしています。
また、家族(両親や子供、配偶者など)が問題のある宗教団体の信者である場合の、「脱会」に関する相談(「教団から脱会させたい」「洗脳を解きたい」など)については、かなりの専門性が求められるため、いわゆる「脱会カウンセリング」「洗脳カウンセリング」を行なっているカウンセラーに相談するのが適切でしょう。
一方、私たちが行なっている「心理カウンセリング」では、問題の解決に向けてどのように進めていけばいいのか、信者である家族や恋人とどのように関わっていけばいいのかなどを一緒に考えていくことができます。
また、これまでのつらい経験による心の傷をどう癒していくか、現在、どのような心持ちで過ごすようにすれば、少しでも気持ちを楽にしたり、心を平静に保っていくことができるのかを考えていくことができます。
宗教が絡む悩みは非常にデリケートな問題であり、身近なところではなかなか相談することが難しいものです。それゆえに一人で抱え込んで、どうすればいいのかわからなくなっている人もいます。
だからこそ、一人で悩まず、まずはカウンセリングを受けに来ていただき、その胸の内をお話しいただければと思います。
良い方法が必ずあると信じて、決してあきらめずに、まずは行動を起こしてください。
文責・佐伯 剛(一般社団法人日本うつ病サポート協会理事/カウンセリングサロンクローバー代表)