カウンセラーの役割は「答え」を教えることではない
「カウンセラー」と混同されることが多い「アドバイザー」。この両者の違いについて、以前、ここでも書かせていただきました。
両者の大きな違いのひとつに、「アドバイスをするかどうか」が挙げられます。
カウンセラーは、積極的にアドバイスをすることはなく、必要最小限にとどめます。
一方のアドバイザーは、具体的なアドバイスを積極的に行なっていきます。
この違いを簡単に言うと、「答えを与えるかどうか」ということになるでしょう。
つまり、「カウンセラーは答えを与えない」「アドバイザーは答えを与える」ということです。
カウンセラーが与える必要最小限のアドバイスは、答えを見つけるための、いわば「ヒント」と言うことができるでしょう。この点については後述します。
「カウンセラーは答えを与えない」と書きましたが、むしろ「答えを与えてはいけない」と言ってもいいでしょう。
これを読んで不思議に思う人も少なくないかもしれません。
しかし、これは紛れもない事実であり、私たちカウンセラーが日々、実践していることなのです。
では、なぜ答えを与えない(アドバイスをしない)のでしょうか?
それは、相談者を依存させないためなのです。この「依存」については、後ほど、さらに詳しく説明します。
カウンセラーは、相談者が求めている「答え」を知っています。もちろん、最初は知らなかったとしても、相談者の話を聞いているうちに、当の相談者が気づく前に、何が答えであるかに気づきます。
それなら、すぐにその答えを教えてあげればいいじゃないか、と思うかもしれません。
しかし、それではいけないのです。
そもそも、カウンセラーが担う役割とは、相談者の悩みや問題についての具体的な解決策(答え)を提示することではありません。
カウンセラーは、相談者自身が悩みや問題を解決できるようになるためのサポートを行なうのです。
言い方を変えれば、相談者が自分の力で考え、答えを見い出し、それに向けて行動していくように促すことなのです。
相談者が抱えている悩みや問題というのは、その人自身が解決しなければならないのです。
つまり、「答え」を見つけるのは相談者自身でなければいけないのです。
私たちカウンセラーは、相談者が自ら答えを見い出せるよう促していくという形でサポートするのが役割であり、使命であるのです。
ですから、「答え」を与えてはいけないのです。
「答え」を与えてはいけないもうひとつの理由
「答え」を「与えない」のではなく「与えてはいけない」と言うと、非常に厳しい表現に聞こえるかもしれません。
しかし、現実問題として、この点は徹底すべきことであると言うことができるのです。
どういうことか説明していきましょう。
もし、カウンセラーがすぐに答えを与えてしまったら、どうなるでしょうか?
相談者は労せず「答え」を得ることができてしまうため、自分で考えることをしなくなってしまいます。
そして、その後も悩みや問題が発生するたびに、「どうすればいいでしょうか?」と、カウンセラーのもとを訪ねることになるのです。
この「どうすればいいでしょうか?」とか、「どうしたらいいかわからないんです」といった言葉の真意は、こういうことです。
「また答えを教えてください」。
この期待にカウンセラーが応えるということを繰り返すと、相談者は永遠にカウンセラーのもとに足を運び続けることになってしまいます。
相談者自身はそれでもいいかもしれません。なぜなら、その都度、「答え」を教えてもらえるのですから。
しかし、お気づきでしょうか?
これでは、相談者は一生「相談者」のままであり、悩みや問題を自ら解決する力を身につけることができないまま、生き続けることになってしまうのです。
これが、前述した「依存」という状態です。
そして、カウンセラーが相談者に「答えを与える」ということは、相談者から、自ら考える機会を奪う行為であると言うことができるのです。
これは、実に非道な行為と言っていいでしょう。
一人の人間としてのカウンセラーが、そのような、人としての道(あり方や生き方)から外れたことをやっていいものでしょうか?
その答えは言わずもがなであるでしょう。
仮に、相談者がカウンセラーに依存しなかったとしても、周りの誰かに「答え」を求めるようになります。
家族や友人・知人である場合もあるでしょう。場合によっては、占い師であったりすることもよくあります。「当たる」と評判の占い師を巡っては、「どうすればいいか?」を尋ねるのです。
占い師にもさまざまなタイプがありますが、多くの場合、真偽はともかく、「答え」を提示し、「こうしなさい」「こうすべきです」などと独断的な意見を押し付けるような手法を取ることが少なくありません。
悩んでいる相談者は、その言葉を信じて行動するようになります。むしろ、そうした言葉がないと行動できなくなってしまうのです。
私たちカウンセラーは、決してそのようなことはしたくありませんし、断じて、してはならないのです。
「提案」したり、「ヒント」を与えることはある
カウンセラーは相談者に「答え」を与えることは決してしません。してはいけません。
カウンセラーの役割は、「答えを与える」ことではなく、相談者が自ら答えを見つけられるよう促すことであり、あくまでもサポートを行なうことです。
そのための手法として、「提案」をしたり、「ヒントを与える」ということはあります。
カウンセラーに対して依存をさせないために、「答えを与える」ということはしてはいけないので、明確な答えや、決定的な解決策を与えることはしません。
「提案」は、あくまでもひとつの「案」を提示するだけであり、その「案」を選ぶかどうかを考え、最終的に決めるのは、やはり相談者自身でなければいけません。
その場合、いくつかの案を提示し、その中から選んでもらったり、叩き台として使ってもらったり、思考の取っかかりとして用いて、そこから他の方法はないかを考えてもらったりすることもあります。
つまり、「提案」は、相談者自身が考えるうえで参考にしてもらうための、ひとつの「材料」として提示するということなのです。
一方の「ヒント」については、クイズやなぞなぞの場合の「ヒント」をイメージしてもらえればわかりやすいでしょう。
「ヒントを与える」というのは、「答えを与える」ことの代償行為ではなく、相談者をサポートする手段のひとつと言ったほうがいいかもしれません。
具体的には、「答え」につながるキーワードや例え話、関連性があったり類似する事例を示すなどして、相談者自身が気づきを得られるように誘導していくというものです。
「答え」を教えたほうがカウンセラーは楽なのでは?
カウンセラーは、相談者が抱える悩みや問題の「答え」を知っているのであれば、それをすぐに教えてあげたほうが楽なのでは?
そんな疑問を持った人もいるかもしれません。
確かに、相談者自らが答えを見つけられるよう促すというやり方は、決して楽なものではありません。
ですから、答えを教えてしまったほうが楽と言えば楽です。
しかも、答えを教えることで相談者を依存状態にしてしまえば、事あるごとに「答え」を求めて相談に訪れることになります。
カウンセリングを「ビジネス」とか「商売」と捉えれば、相談者は「お客様」と言うことになるでしょう。
そして、継続して通ってくる「お客様」は「リピーター」ということになり、そのカウンセリングルームの「常連客」ということになります。「お得意様」とか「上客」「顧客」と呼ぶこともできるかもしれません。
しかし、私たちは「お金儲け」を目的にカウンセリングを行なっているわけではありません。
悩んでいる人の助けになればという思いで、日々、カウンセリングに取り組んでいます。
ですから、相談者を依存状態にさせることは避けなければならないと思っています。
自分の悩みや問題は、自分の力で解決できるようになってほしいのです。
そのためのお手伝いをするのが、私たちカウンセラーの使命なのです。
だからこそ、カウンセリングでは、アドバイスをしないということがおわかりいただけたことでしょう。
この点をしっかり理解したうえで、カウンセリングを受けに来ていただければと思います。